事業承継やM&Aには、専門家への手数料や、引き継いだ後の設備投資など、まとまった費用がかかることがあります。こうした費用の一部を国が補助する制度が「事業承継・M&A補助金」です。以前は「事業承継・引継ぎ補助金」という名前で知られていました。
本コラムでは、中小企業庁が所管し、中小企業基盤整備機構(中小機構)も案内しているこの補助金について、どのような支援の枠があるのか、使うときに気をつけたい点は何かを、一般論としてわかりやすく整理します。補助の上限額や要件は公募の回ごとに見直されるため、申請を考える際は、公式サイトの最新の公募要領を確かめてください。
1. 4つの支援の枠
事業承継・M&A補助金は、承継やM&Aの段階に応じて、目的の異なる4つの枠に分かれています。自社がどの段階にあり、どの費用の補助を受けたいのかによって、申請する枠が変わります。
| 枠 | 主な目的 | 想定される場面 |
|---|---|---|
| 事業承継促進枠 | 承継をきっかけにした設備投資などを支援 | 親族や社員への承継を控え、新しい取り組みを始めたいとき |
| 専門家活用枠 | M&Aの仲介・FA、デューデリジェンスなど専門家の費用を支援 | 会社や事業を譲る・譲り受けるとき |
| PMI推進枠 | M&A後の統合(PMI)にかかる専門家の費用や設備投資などを支援 | 事業を譲り受けた後、組織や業務を一つにまとめるとき |
| 廃業・再チャレンジ枠 | 承継やM&Aにあわせた廃業の費用などを支援 | 一部の事業をたたむときや、再チャレンジするとき |
公募の回によって、枠の中の類型や要件、補助の上限額・補助率は変わります。最新の公募要領で確かめてください。
2. 申請から受け取りまでの流れ
補助金は、申請すれば誰でも受け取れるものではありません。審査で採択され、交付が決まってから事業を行い、実績を報告したあとに支払われるのが基本的な流れです。費用を先に自社で支払い、あとから補助を受ける形になるため、資金繰りにも余裕を持っておく必要があります。
- 準備STEP 1公募要領を読み、枠を選ぶ対象になる会社・費用・期間を確かめ、GビズIDプライムを用意する
- 申請STEP 2期間内に電子申請する事業の計画や見積もりなど、求められる書類をそろえて提出する
- 審査STEP 3採択・交付決定審査を経て採択され、交付が決まってから事業を始める
- 実行STEP 4事業を行い、費用を支払う計画どおりに事業を進め、領収書などの証拠を残す
- 報告STEP 5実績を報告し、補助金を受け取る報告の内容が確認されたあとに、補助金が支払われる
3. 使うときに気をつけたいこと
一つ目は、時期です。補助金は公募の期間が決まっており、中小機構の案内によると、第16次公募は2026年10月2日に申請の受付が始まりました。申請に必要なGビズIDプライムの取得には日数がかかることがあるため、検討している場合は早めの準備が欠かせません。
二つ目は、契約や発注のタイミングです。補助金では一般に、交付が決まる前に契約・発注した費用は補助の対象になりません。専門家との契約を急ぐと、補助を受けられなくなるおそれがあります。
三つ目は、専門家の選び方です。専門家活用枠でM&Aの仲介やFAの費用の補助を受けるには、中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」に登録された支援機関を使うことが要件とされています。依頼を考えている専門家が登録しているかどうかを、事前に確かめておきましょう。登録の有無は、制度の公式サイトで公表されている登録支援機関のデータベースで調べることができます。
4. 補助金は「目的」ではなく「手段」
補助金は心強い支援ですが、補助を受けることそのものが目的になってしまうと、本来の承継やM&Aの判断がぶれることがあります。まずは自社にとって望ましい承継の形を考え、そのうえで使える制度があるかを確かめる、という順番が大切です。
また、補助金には採択されないこともあります。補助を受けられなかった場合でも計画を進められるのか、資金の手当てはどうするのかを、あらかじめ考えておくと安心です。申請書を作る過程で、承継の目的や今後の事業の計画を言葉にして整理できることは、採択の結果にかかわらず、経営にとって大きな財産になります。
申請の準備は、顧問の税理士や商工会議所・商工会、各都道府県の事業承継・引継ぎ支援センターなどに相談すると進めやすくなります。相談窓口については「国の相談窓口『事業承継・引継ぎ支援センター』とは?」、M&A後の統合については「譲ったあと、会社はどうなる?」もあわせてご覧ください。
参考:事業承継・M&A補助金 事務局 公式サイト、中小機構 J-Net21「『事業承継・M&A補助金』(16次公募)10月2日受付開始」