M&Aの相談を始めると、聞き慣れないカタカナや専門用語が次々に出てきます。「今さら聞きにくい」と思ったまま話が進んでしまうと、大事な判断のときに不安が残ります。

本コラムでは、中小企業のM&Aでよく出てくる用語を13語に絞り、どの場面で使われるのかとあわせて、できるだけやさしく解説します。

1. 場面ごとに見る、用語の地図

M&Aの流れと、よく出てくる用語
  1. 準備PHASE 1相談・相手探し仲介・FA、ノンネームシート、秘密保持契約(NDA)
  2. 交渉PHASE 2条件のすり合わせ企業価値、EBITDA、意向表明書、基本合意
  3. 調査PHASE 3買い手による調査デューデリジェンス(DD)
  4. 契約PHASE 4最終契約・成約最終契約、表明保証、クロージング
  5. 成約後PHASE 5引継ぎ・統合のれん、PMI

2. 相談・相手探しの場面

仲介・FA:仲介は売り手と買い手の間に立つ支援者、FA(フィナンシャル・アドバイザー)は一方の立場で助言する支援者です。どちらの立場かで、誰の利益を優先するかが変わります。

ノンネームシート:会社名が分からないように、業種や地域、規模などの概要だけをまとめた資料です。買い手候補に最初に見せるもので、秘密を守りながら相手を探すために使います。

秘密保持契約(NDA):会社の詳しい情報を開示する前に、相手と結ぶ「情報を外に漏らさない」という約束です。決算書などの資料は、この契約を結んでから渡すのが一般的です。

3. 条件のすり合わせと調査の場面

お金に関わる用語
用語ひとことで言うと
企業価値事業が将来生み出す力も含めた、会社全体の値打ち
EBITDA(イービットダー)本業でどれだけ稼ぐ力があるかを見るための利益の目安。営業利益に減価償却費などを足して計算する
のれん買った金額のうち、会社の純資産(資産−負債)を上回る部分。ブランドや人材、取引関係など目に見えない価値

一般的な説明です。計算方法の細部は、会社や評価の方法によって異なります。

なお、「企業価値」と、実際に株式が売り買いされる「株式の価値」は同じではありません。一般に、企業価値から借入金などを差し引き、手元の現預金などを加えたものが株式の価値の目安になります。提示された金額がどちらを指しているのかは、話を進める前に確認しておきたいポイントです。金額の前提がずれたまま交渉を続けると、あとで大きな食い違いにつながることがあります。

意向表明書:買い手候補が「この条件で検討したい」という意思を示す書面です。希望する価格の目安や、引き継ぎ後の方針などが書かれます。複数の候補を比べる材料になります。

基本合意:大まかな条件で売り手と買い手が合意したことを確認する段階です。多くの場合、一定期間ほかの相手と交渉しない「独占交渉」が定められます。最終的な約束ではない点も押さえておきましょう。

デューデリジェンス(DD):基本合意のあと、買い手やその専門家が、財務・税務・法務・労務などを詳しく調べる手続きです。結果は、最終的な価格や条件に反映されます。

4. 最終契約と成約後の場面

最終契約:価格や支払い方法、引き継ぎの条件などを正式に決める契約です。株式を譲る場合は、株式譲渡契約と呼ばれます。

会社の譲り方には、会社の株式をまるごと譲る「株式譲渡」と、事業の一部または全部を切り出して譲る「事業譲渡」などがあります。中小企業のM&Aでは株式譲渡が多く使われますが、どちらを選ぶかで手続きや税金、引き継がれる契約の範囲が変わるため、専門家と相談して決めましょう。

表明保証:売り手が「会社の状態について説明した内容は正しい」と約束する条項です。あとで説明と違う事実が見つかると、補償を求められることがあります。気になる点は、契約前に開示しておくことが大切です。

クロージング:株式の引き渡しと代金の支払いが行われ、M&Aが実際に完了することです。

PMI:成約後に、2つの会社の経営や仕組み、社員の気持ちをすり合わせていく取り組みです。M&Aは、成約してからが本当のスタートです。

用語の意味が分かるだけで、支援者の説明はぐっと理解しやすくなります。分からない言葉が出てきたら、その場で遠慮なく質問しましょう。説明の分かりやすさは、相談相手を選ぶときの大切な目安にもなります。

参考:中小企業庁「中小M&Aハンドブック」、中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」