「後継者がいない」「会社をどう引き継げばいいか分からない」——そんな悩みを抱えたとき、最初の相談先として知っておきたいのが、国が設置している「事業承継・引継ぎ支援センター」です。名前は聞いたことがあっても、実際に何をしてくれるのかは、意外と知られていません。

本コラムでは、センターの役割と支援の流れ、相談する前に準備しておくとよいことを整理します。

1. どんな窓口なのか

事業承継・引継ぎ支援センターは、中小企業の事業承継を支援するために国が全国47都道府県に設置している公的な相談窓口です(48か所)。中小企業基盤整備機構(中小機構)が全国本部として、各地のセンターの活動を支えています。福岡県にもセンターがあります。

利用は年々広がっています。中小機構の発表によると、2025年度(令和7年度)の新規相談者数は2万4030者、第三者への承継(M&A)の成約件数は2265件で、いずれも過去最多となりました。各地のセンターの案内では、相談は無料で、秘密は守られるとされています。

事業承継の相談は、身近な税理士や取引先の金融機関にすることも多いでしょう。ただ、相談先によって得意な分野や立場はさまざまです。特定の結論に誘導されず、承継の選択肢を幅広く整理できる場として、公的な窓口を一度使ってみる価値は十分にあります。

2. センターでできること

事業承継・引継ぎ支援センターの主な支援
支援の内容こんなときに
承継全般の相談何から始めればよいか分からない、選択肢を整理したい
親族内・社内承継の支援子どもや社員に継がせたい。承継の計画づくりを手伝ってほしい
第三者承継(M&A)の支援後継者がいないため、会社を譲れる相手を探したい
後継者人材バンク創業を目指す個人に事業を引き継いでもらいたい
専門家・支援機関の紹介税理士や金融機関、民間のM&A支援機関などにつないでほしい

主な支援を整理したものです。具体的な支援内容は各センターにご確認ください。

「後継者人材バンク」は、創業を目指す個人と後継者のいない会社を引き合わせ、創業と事業の引継ぎを同時に支援する取り組みです。2025年度の成約件数は114件で、こちらも過去最多となっています。

3. 相談から支援までの流れ

センターに相談したときの一般的な流れ
  1. 相談STEP 1相談の申し込み電話などで申し込み、面談の日程を決める
  2. 整理STEP 2現状と希望の整理会社の状況や後継者の有無、経営者の希望を聞き取り、課題を整理する
  3. 方針STEP 3承継の方向性を決める親族・社員への承継か、第三者への承継かなど、進め方を検討する
  4. 実行STEP 4支援・専門家へのつなぎ計画づくりやマッチング、専門家・支援機関の紹介などで実行を支える

センターは中立的な立場で相談に乗ってくれるため、「まだ売ると決めたわけではない」「家族にもまだ話していない」という段階でも相談しやすいのが特長です。

第三者への承継を進める場合、センターが自ら相手探しを支援することもあれば、地域の金融機関や民間のM&A支援機関と連携して進めることもあります。どのような形で進めるのか、費用がかかる場面はあるのかといった点は、早い段階で確認しておくと安心です。

4. 相談する前に準備しておきたいこと

面談の時間を有効に使うために、次のようなものを用意しておくと話が進みやすくなります。

  • 直近数期分の決算書
  • 会社の概要(事業内容、社員数、主要な取引先など)
  • 株主の構成と、社長個人の保証や借入の状況
  • 「社員の雇用を守りたい」「社名を残したい」など、承継で大切にしたいこと

特に最後の「大切にしたいこと」は、どの承継の形を選ぶかを決める軸になります。事前に言葉にしておくと、相談の質がぐっと高まります。

また、事業承継の準備には、一般に数年単位の時間がかかるといわれます。後継者の育成や株式の整理、取引先との関係づくりなど、時間をかけて進めたほうがよいことも少なくありません。「まだ先の話」と思っている段階こそ、相談を始めるのによいタイミングです。

公的な窓口と民間の支援機関には、それぞれの役割と得意分野があります。複数の相談先をうまく使い分けながら、自社に合った承継の形を探していきましょう。まずは、自社の準備がどこまで進んでいるかを確かめるところから始めてみてください。

参考:J-Net21(中小企業基盤整備機構)「事業承継・引継ぎ支援センター」実績に関する記事、J-Net21(中小企業基盤整備機構)関連記事、静岡市「事業承継・引継ぎ支援センター」案内