「会社は継いでもいい。でも、借入金の個人保証まで背負うのは不安だ」——事業承継の場面で、後継者候補からよく聞かれる声です。中小企業の借入では、社長が会社の借入金を個人として保証する「経営者保証」が広く使われてきました。この保証が、承継をためらわせる大きな壁になることがあります。

本コラムでは、国が示しているガイドラインの考え方と、保証の負担を軽くするために会社側で準備しておきたいことを整理します。

1. なぜ個人保証が承継の壁になるのか

経営者保証は、会社が返済できなくなったときに、社長個人が代わりに返済を約束するものです。現経営者にとっては長年の前提でも、後継者にとっては「会社と一緒に個人の生活まで背負う」ことを意味します。親族や社員が後継者候補の場合、本人や家族が保証を理由に承継を断るケースも少なくありません。第三者への譲渡(M&A)でも、前経営者の保証をどう外すかは、契約条件の中で必ず確認すべき論点になります。

2. 国のガイドラインはどう考えているか

こうした課題を受けて、日本商工会議所と全国銀行協会が事務局となった研究会が「経営者保証に関するガイドライン」を定めています。さらに、事業承継に焦点を当てた「特則」が設けられ、2020年4月から運用されています。

特則では、前経営者と後継者の双方から保証をとる「二重徴求」を原則として行わないことや、後継者に保証を求めないことも含めて柔軟に検討すること、前経営者の保証の見直しを適切に行うことなどが、金融機関に求められています。経営の実権を持たなくなった前経営者の保証についても、見直しを検討することが示されています。

事業承継時の経営者保証 特則の主な考え方
これまで起きがちだったこと特則が示す考え方
前経営者と後継者両方から保証をとる(二重徴求)原則として二重徴求をしない
後継者承継と同時に保証を求められる保証を求めないことも含めて柔軟に検討する
前経営者退任後も保証が残り続ける実権を持たなくなった場合などは見直しを検討する
金融機関の説明判断の理由が伝わりにくい保証の要否や解除に向けた取組みを説明する

特則の内容を要約したものです。実際の取り扱いは金融機関との協議によります。

3. 保証を外すために、会社側で整えておきたいこと

ガイドラインは、保証を求めない判断の前提として、会社側にも一定の体制を求めています。承継の数年前から次のような準備を進めておくと、金融機関との話し合いがしやすくなります。

保証を外すための準備 3つのステップ
  1. 区分STEP 1会社と個人のお金を分ける社長個人への貸付や、私的な支出の会社負担などを解消し、資産と経理をはっきり分ける
  2. 強化STEP 2財務の土台を強くする収益力を高め、借入に頼りすぎない体質へ。返済の見通しを数字で示せるようにする
  3. 開示STEP 3金融機関にこまめに情報を開示する決算書や試算表を定期的に共有し、会社の状況を正しく理解してもらう

あわせて、全国の信用保証協会では、事業承継の際に経営者保証を不要とする信用保証制度も取り扱われています。利用できる要件や手続きは制度ごとに異なるため、取引のある金融機関や信用保証協会に早めに相談しておくと安心です。

金融機関との交渉に不安がある場合は、外部の支援を活用する方法もあります。中小企業庁は、経営改善計画の策定を支援する「認定経営革新等支援機関」による経営者保証の解除に向けた支援や、各地の「中小企業活性化協議会」によるガバナンス体制の整備支援を案内しています。自社だけで抱え込まず、早い段階で相談先を確保しておきましょう。

4. 承継のかたち別に見る、保証の論点

親族内承継や社内承継(MBO)では、後継者が保証を引き継ぐかどうか、前経営者の保証をいつ、どう外すかが中心的な論点になります。第三者への譲渡では、譲り受ける会社の信用力で借入を借り換えたり、保証を外したりする条件を、最終契約までに明確にしておくことが重要です。いずれの場合も、「承継が終わってから考える」のではなく、承継の計画を立てる段階から金融機関と話し合いを始めることが、保証の問題を前に進める近道です。

個人保証は、承継をためらわせる大きな理由である一方、準備次第で負担を軽くできる可能性のある論点でもあります。自社の承継に向けた準備がどこまで進んでいるかを知るところから、始めてみてください。

参考:J-Net21(中小企業基盤整備機構)「事業承継時の経営者保証に関するガイドラインの特則」、中小企業庁「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策」